好きより、もっと。
「大崎さ――――――」
「此処以外の場所では許さん」
「・・・嫌ですよ。だって、大崎さんがいるだけでもおかしな状態なのに、こんな距離感で会話を聞かれるなんてゴメンです」
「じゃあ、選べ。このまま電話をするか、やっぱり俺に無理矢理抱かれるか」
「・・・そんなこと、しないんじゃないですか?」
「出来るさ。理性では出来ないと感じていても、お前に触れば本能だけで抱けるさ」
とびきり優しい笑顔のままで、大崎さんはとんでもないことを言った。
言葉の内容はやっぱり最低発言なのに、二人の間の雰囲気はまだ柔らかい。
どうしてこんな空気のまま、こんな言葉を紡ぐことが出来るのかと不思議に思うくらい、大崎さんは自然にそう言った。
そして。
優しいままでいられるのは『この距離で拓海に電話するから』なのだと、線引きまでされてしまった。
裏を返せば、『このままの距離でいないなら、この優しい空間をすぐに壊してやる』という意思表示だということだ。
狡い。
さっきまでの感情が逆流しそうになるのを、柔らかい雰囲気が押し留めてしまう。
それなのに逃げ場なく追いつめられる。
こんな技を持っているなんて、狡い。
「・・・せめて、もう少しだけ離れてもいいですか?リビングの中にはいますから」
「駄目だ。俺が直接電話しないだけでも譲歩だと思え」
なんてことを。
そんな爽やかに笑っても、心の奥底では自分が電話するつもりだったなんて。
その言葉に私は折れるしかなく、自分の鞄から携帯電話を取り出した。
そこには。
拓海と和美からの着信で埋められた履歴と、留守電や伝言メモが沢山残されていた。