好きより、もっと。
「・・・遠いなぁ」
「・・・そうだな」
私の携帯を取り上げ、それを私の見えない場所へと置いた大崎さん。
するりと携帯を抜かれた手は何を掴んでいいのか分からず、そのままの状態で固まってしまった。
その手に自分の手を滑り込ませて指を絡める大崎さん。
ギュッと握られたのは分かるのに、自分の手ではないかのように指は動くことをしなかった。
引き寄せられて大崎さんの胸にもたれかかってしまう。
強い力も強引さも持ち合わせていない大崎さんの腕の中から抜け出すのは簡単なのに、私はそれをしなかった。
一瞬でも想ってしまったから。
誰でもいいから助けて欲しい、と。
男の人の腕に甘えたいな、と。
最低なことを、想ってしまったから。
「今日は泊まっていけ。明日の朝、家まで送ってやるから」
「・・・」
「こんな状態で、帰せねぇだけだ。心配しなくても何もしない。お前が約束を守ってくれたからな」
自分の身体から力が抜けるのが分かって、大崎さんに全てを委ねるように身体を預ける。
私のそんな行動が意外だったのか、小さく息を呑む声が聞こえた後、大崎さんは小さく息を吐き出した。
私の頭のてっぺんに優しくキスを落として、そのまま私を抱えて立ち上がる。
『あぁ、お姫様だっこだなぁ』なんて考えることもなく、ただ運ばれる人形のように、私は微動だにしなかった。
大崎さんが足を進めているのは、リビングの奥にある一室。
扉を開けるとベッドと箪笥と机があり、仕事用らしくないデザイン性の高い机にはデスクトップのパソコンが置いてある。
大崎さんの気配しかしないことが少しだけ不思議な気がする、大崎さんのためだけの部屋。