好きより、もっと。
着ている服もそのままに、優しくベッドへと横たえられる。
サイドの関節照明を付けただけの部屋の中で、大崎さんは私の手を握り頭を優しく撫でてくれた。
心配そうに見つめるでもなく、かといって同情しているような様子でもなく。
ただただ愛しそうに私の頭を撫で続けてくれた。
「どうでもいい女は、此処には入れねぇから」
そう言った声はとても真っ直ぐで、信じられないくらい甘い声だった。
確かに耳に聞こえたはずなのに言葉はすり抜けていく。
その人の目に映った自分は、何の表情も持っていない人形のような顔をしていた。
『おやすみ』という言葉と共に頬に落とされた柔らかいキスの感触を残して、ベッドルームから出て行く大崎さん。
扉が閉まる瞬間、少しだけこちらに目を向けて困ったように笑った気がした。
完全に扉が閉まった後、私はモゾモゾと布団の中に潜り込む。
目を開いているはずなのに、そこに映るものは何一つ分からなかった。
ジワリと視界が歪んでいき、その光景を見ていたくなくてキツく目を閉じた。
「・・・うぅっ、ふっ・・・あぁ・・・」
声を殺そうと必死に布団をかぶり、溢れ出る限り涙を流した。
感情なんて無くなったような顔をしていたくせに。
大崎さんに縋ったのは自分のくせに。
拓海のために泣いている姿は見られたくない、なんて。
最低だ。
私はどうしてこんなところにいるんだろう。
もう涙なんて出ないと思ってたのに。
息が苦しくなって上手く酸素が吸えなくても、次から次へと流れ出す涙は止まらない。
大崎さんの香りに包まれながら、それでも拓海を想い出す自分の感情は、行き場がなくて苦しいばかりだ。
他の人の香りがすればする程、拓海の声や顔や身体の感触までもが鮮明になっていく。
想い出した拓海の顔は、優しく私の名前を呼んでくれる、私の一番好きな顔だった。
泣き疲れて眠る直前、ドアの向こうから大崎さんが誰と話をする声がしたような気がした。