好きより、もっと。
「きゃっ!・・・大崎、さん」
目の前の大崎さんの視線は、多分私以外には見えていない。
いつのまにこんなに近くに来たのだろう、と。
瞬間移動かと思う程、早く。
この人は目の前にいる。
その人の目は、カズと同じ肉食獣。
いや、それよりもずっとタチが悪い。
逆らってはいけない、という威圧感と、逃がさないという捕縛感。
そして、絶対服従の力を持っている。
「大崎さん・・・っ!」
カズが見ているところで、後姿だけでも動揺したくなかった。
さっき張り上げられたあの声の主が。
今、どんな顔で私を見ているのかなんて、振り向かなくても感じているから。
「イイ顔だ。もったいないから、他の奴らに見せる訳にはいかないな」
誰にも聞こえないように言われたその声は、あまりに大人の色気で溢れていた。
この人の声に惑わされてはいけない、と。
何度言い聞かせてきたか、わからない。
ただ、タクを想い出して、心の底から逢いたいと想った。
今すぐ、目の前の人の声を掻き消して欲しい、と想った。
「高田のキャンギャルもいいが、俺はやっぱり本田のスレンダーさが好みだな」
明るい声で。
さっきの時間がどのくらいなのか分からないけれど、きっと数秒間だったんだと思う。
だって、周りのみんなが普通だもの。
そして、その数秒間を無かったことにするかのように、大崎さんは明るい声を出した。
あかねにそんなことを言ったらどうなるのか、目に見えているのを全て分かっていて。