好きより、もっと。
「まだ仕事に集中するには少し早い。休憩室で電話してこいよ」
「え・・・」
「気になって仕方ないンだろ?仕事するために、行ってこいよ」
柔らかい表情は、いつも私を助けてくれる顔だ。
目の奥が笑っていない大崎さんではない。
心底私を心配している顔をして、何があっても私を助けてくれる時の大崎さんだった。
何処となく楽しそうで、意地の悪い顔をしている気もするけれど。
この人のこういう悪戯っぽいところが、何故か信頼出来ると感じている。
そっと手を離して、ひらひらと振りながら自分の席に戻って行く。
その背中に向かって『ちょっと行ってきます』と声を掛けて休憩室を目指した。
オフィスかの扉に向かっている間、背中にずっと視線を感じていた。
「・・・素直に全部話せればいいけどな」
扉を開けて大崎さんを振り向くと、変わらぬ優しい顔で何か呟いたように見えた。
それに向かって小さく笑顔を返す。
遠くからでも分かるような柔らかい笑みが、私の背中を押してくれていた。
着信履歴や留守番電話を確認している余裕など一つもなく、私はタクの電話番号を呼び出した。
廊下に響く自分のヒールの音を、絨毯が吸い取って鈍い音に変わる。
一歩一歩足が進む毎に逸る気持ちを押し込めることなど出来なくて、心臓が大きな音を立てる。
休憩室の扉を開けたと同時に、受話器の向こうで聞きなれた声がした。