好きより、もっと。
言葉遊びを愉しむような余裕の声で、俺のことを揺さぶっているのが分かる。
そんな安い挑発に乗るほど馬鹿ではないが。
非道く追いつめられているような気持ちになって居心地が悪かった。
背筋を冷たいものが昇ってくるような。
目の前にいないはずのこの男に、遠く離れた俺の何もかもを見透かされているような、そんな気持ちになった。
『声だけでアイツが耐えられると思うなよ』
「は?そんなこと言われなくても――――――」
『アイツは、脆い。自分が頑張っていることに気付かない。頑張って頑張って、自分の限界をとうに超えていることに気付かないで、それでもまだ自分には何かが足りないと思って無理矢理前に進もうとする。それを掴まえて無理矢理にでも立ち止まらせることが出来るのは、すぐ傍でぬくもりと甘える場所を作ってやることが出来る俺だけだ』
「馬鹿言うな。俺は一人じゃない。カズがいる」
『だから尚更、アミが辛くなることをお前達は分かってない』
「俺達の何を知ってるってンだよ。他人のお前に何がわかる」
『他人だから、だろ?お前の分身みたいなカズが近くにいればいる程、亜未はお前ではないことを実感するんだ。似すぎているからこそ違いがある。縋りたくても違うことを明確にさせるカズに、亜未が甘えられるわけがない』
「だからと言って、お前に縋る様な女じゃねぇよ。亜未を見くびるな」
『だろうな。それでも俺に甘えることは出来るんだよ。ある程度距離があって、ある程度他人だからこそ、してやれることがあるんだよ』