好きより、もっと。
繋がらない電話
「お前、フザけンなよ」
どこぞのヤンキーのような口ぶりで、カズは私を睨みつけていた。
既に着替えを済ませてユニフォームを用意し終えたほかのメンバーは、そそくさとオフィスに戻って行った。
カズは『打ち合わせし忘れたことがあって』と言って、私とこの場所に残っていた。
「・・・なによ。そんなに怒ることないでしょ!?」
「お前が着ない、ッつったんだろうが!あ゛ぁん!!」
「何よ!そのヤンキーみたいなキレ方!別に何を着ようと私の勝手じゃないのよ!」
「ユニフォームは別だ」
急に声のトーンを下げて、真面目に話をしだすカズに。
結局私は何も言えなくなる。
藤澤家の雰囲気に、私が敵うはずがないんだ。
「お前、ほんとに鈍感なのな」
「・・・は?」
「少しは男の目線ってヤツを学べ。そうしないと、あまりにもタクが可哀相だ」
「タクは『どうして着ないの?』って」
「アイツ笑ってたか?」
「笑ってた」
「目も?」
目?
あの時のタクの目・・・?
いつも顔をくしゃくしゃにして笑うタク。
楽しいことがあると、大きな綺麗な目が分からなくなる程、くしゃくしゃになる。
その笑い顔が、私は世界で一番好き。
でも。
あの時のタクは、顔をくしゃくしゃになんてしてなかった。
冷静な、綺麗な笑い顔だった。
それは、つまり。
『取り繕っていた』というに相応しい雰囲気だったに違いない。