好きより、もっと。
変な責任感の持ち主だな、と思って思わず黙る。
別に、一人でも平気なのに。
そんな気持ちを込めて、ふうと一つ息を吐いた。
「課長。部下を信頼して下さい」
『あぁ、してる』
「じゃあ―――――――――」
少し遠くからピッ、ピッという機械音がしてオフィスのドアがガチャリと開いた。
そこから、携帯電話を片手にこちらに歩いてくる大崎さんが見えた。
「お疲れ様です」
『おう。お疲れ様』
入口から部署のデスクまでは距離がある。
大崎さんは、電話を切る様子がない。
電話口から聞こえる大崎さんの声は、低く耳の奥を震わせる声だ。
「戻ってくる気、満々だったんじゃないですか」
『そうでもねぇぞ』
そう言いながら、少しずつこちらへ向かってくるので、耳から受話器を離そうとする。
その仕草を見つけて、大崎さんは大きく手を前に出して足を止めた。
『待て』と案に言われているのが分かったので、もう一度耳に受話器を当てる。
満足そうに笑い、そこで立ち止まってしまった大崎さん。
会社の中にいるのに電話で話すなんて、なんだか可笑しくて笑ってしまった。
『なんだよ』
「いえ。だって、こんなに近くにいるのに電話だなんて、可笑しいなと思って」
私の言葉にフッと笑い、端正な顔立ちが緩む。
髭がなければとても若く見えるはずの、その顔が。
自棄に色っぽく見えた。
『高田に会いたくて戻った』