好きより、もっと。
そう言うと、携帯を降ろしながら真っ直ぐ私に向かって来る。
その目で見つめられたら、誰だって動けない。
そんな、真っ直ぐで熱っぽい目で、見つめられた。
背中に壁があるみたいに、これ以上、後ずさることも許されないみたいに。
私は受話器をそっと耳から離して、そのまま固まってしまっていた。
一歩ずつ近づいてくるその人から、目を背けることさえ出来ずに。
ただ、時間が止まってしまったみたいにさっきの大崎さんの言葉を反芻していた。
『高田に会いたくて戻った』
カズの『お前、ほんとに鈍感なのな』という言葉が。
あかねの呆れたような視線が。
私の頭を渦巻いていた。
『そんなわけない』と何度も否定をしてみても。
今のこの状況に、頭の中で警報が鳴っている。
大崎さんの次の言葉を、私は絶対に聞いてはいけない気がした。
この人に捕まったら、私は逃げられる自信がないと、想った。
一歩。
また一歩。
どんどん縮まる距離。
心拍数が、上がる。
私の呼吸が、止まる。
もうすぐ。
目の前に、熱い視線を携えた男の人が。
来てしまう。