好きより、もっと。
――――――ブーッブーッブーッブーッ。
ブーッブーッブーッブーッ――――――
その音を合図に、私は大崎さんから目を逸らした。
着信を待ち望んでいた私の携帯電話から音が鳴る。
すぐに手を伸ばして、それを確認する。
『着信:藤澤拓海』
大崎さんを確認することなく、私は無遠慮に通話ボタンを押した。
視界に入るその足元は、もう私の真横まで迫っていて息が苦しくなった。
立ち上がって逃げることは出来なかったけれど、至近距離で大崎さんを見つめずに済む。
それだけで、私は上出来だと想えた。
また、タクに救われた。
タクは、いつだって私を救ってくれる。
『アミ?今、仕事中?』
「うん、残業中」
『そうか。悪ぃな、連絡遅くなって』
「大丈夫。仕事、詰まってきた?また、忙しくなるの?」
大崎さんは私の横から動かなかった。
それどころか、隣のあかねの席に座って、私の方をじっと見つめている。
足を組み。
肘をデスクに置いて頬杖をつく。
くりっとした目が、少し細められてギラついている。
そんな視線が私に注がれる。
惜しげもなく。
『今日、会えるか?』
「何?珍しく弱気だね。いつだって会えるよ。もう仕事切り上げるから」
『今、アミの会社の下にいる』
「えっ!?」
思いもよらないタクの発言に、いつもは絶対に出したりしない声を出した。
横で大崎さんが驚いたような顔をしている。
仕事中に予想外のことがあった時にする、その顔。
大崎さんの表情に、私は苦笑いを返した。
なんだ。
いつもの顔だ。