好きより、もっと。



スッと立ち上がった大崎さんは大きく伸びをして、うーんっと唸りを上げた。

思ったよりも大きな声を、タクに聞かれたくない、と想ってしまった。

思わず電話を持っていない方の手で、マイクを押さえようとして。




その手を、大崎さんに掴まれた。




「あの・・・っ」


『アミ―――――』
「お疲れ様。気を付けて帰れよ」




大崎さんは、私の手を引き寄せて耳元でそう言った。

大人の色気を感じさせる、その低く響く声で。

むしろ、受話器に向かって。




そして、それは。

男を挑発する声だと、直感で想った。




手を離し、口の端だけを上げるような笑い方をして、大崎さんは自分の席に腰掛けた。

その目線は、もう私を捕えてはいないけれど。

私はその人から目を離せずにいた。




『亜末』




低く、けれど何故か胸をときめかせる声がする。

確かに、大崎さんは魅力的で支配的な声を持っているけれど。

私はこの人の声を聞いただけで、他のことなど考えられなくなってしまう。




『亜末、すぐ出れるか?』


「あ・・・、うん。パソコンだけ落とせば」


『じゃあ、すぐ来い。今すぐに、だ』




ブツッと乱暴に電話を切ったタク。

こりゃ、相当気に喰わなかったらしい。



意地の悪い顔で笑う大崎さんを見て、明らかにからかわれたのだ、と分かった。


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