好きより、もっと。



「大崎さん」


「なんだ?」


「下で、カズにそっくりな人、見かけましたね?」


「あぁ、いたな。カズが現場に行ってるの知らなければ、絶対に声掛けてただろうな」


「それが私の彼氏だってわかってましたよね?」


「知ってた」




このやろー。

それで、私に向かってあんなこと言ったんだな。


付き合いが長くなるこの上司は、いかんせん悪戯好きで。

カズみたいに上手くかわせない私は、いつもアタフタしてしまう。



まぁ、後輩たちの手前、顔に出さずにやり過ごすんだけれど。




「からかうの、止めてくださいよね。うちの彼氏、ポーカーフェイス得意過ぎて、何考えてるかわかんないんですから」


「なんだ。カズと一緒で『見てればわかる』タイプじゃないのか?」


「カズと一緒にしないでください。カズの兄は、あんなのと比べ物にならない程、落ち着いてます」


「そうか。俺から見れば、みんなガキだ」




そう言ってニヤリと笑う顔は、なんとも大人の貫録で。

そこら辺にいる若い子は、この顔にやられるんだろうな、と思う。


中身を知ってるうちの社員は、そんなことないだろうけど。




「まぁ、大崎さんから見れば、私なんて小娘なんでしょうけど」




35歳の貫録に、苦笑いをして帰り仕度をする。

パソコンの更新が終わったのを見て、パタンとその蓋を閉めた。


< 35 / 201 >

この作品をシェア

pagetop