好きより、もっと。
「大崎さん」
「なんだ?」
「下で、カズにそっくりな人、見かけましたね?」
「あぁ、いたな。カズが現場に行ってるの知らなければ、絶対に声掛けてただろうな」
「それが私の彼氏だってわかってましたよね?」
「知ってた」
このやろー。
それで、私に向かってあんなこと言ったんだな。
付き合いが長くなるこの上司は、いかんせん悪戯好きで。
カズみたいに上手くかわせない私は、いつもアタフタしてしまう。
まぁ、後輩たちの手前、顔に出さずにやり過ごすんだけれど。
「からかうの、止めてくださいよね。うちの彼氏、ポーカーフェイス得意過ぎて、何考えてるかわかんないんですから」
「なんだ。カズと一緒で『見てればわかる』タイプじゃないのか?」
「カズと一緒にしないでください。カズの兄は、あんなのと比べ物にならない程、落ち着いてます」
「そうか。俺から見れば、みんなガキだ」
そう言ってニヤリと笑う顔は、なんとも大人の貫録で。
そこら辺にいる若い子は、この顔にやられるんだろうな、と思う。
中身を知ってるうちの社員は、そんなことないだろうけど。
「まぁ、大崎さんから見れば、私なんて小娘なんでしょうけど」
35歳の貫録に、苦笑いをして帰り仕度をする。
パソコンの更新が終わったのを見て、パタンとその蓋を閉めた。