好きより、もっと。



大崎さんに顔を向けずに、鞄を肩にかけて帰る準備をする。

その間パソコンを触ることもせず、大崎さんはじっと私を見つめていた。




「・・・その小娘が可愛くて仕方ないんだがな」


「え?何か言いました?」


「いや、なんでも」




優しい顔をして笑っている大崎さんは、とても大人に見えた。

いや、私なんかよりもずっと年齢が上だし実際に大人なんだけれど。




「じゃあ、お先に失礼します」


「あぁ。カズの兄貴に宜しく」


「私の彼氏、って言ってもらえます?」


「あぁ、いずれな。お疲れ」




大崎さんがこうやってはぐらかす時は、もう呼び名が決まってしまった事を意味する。

大崎さんは人の事を憶えるのが得意な癖に、一度呼び名を決めるとそれ以外では呼べなくなるという特殊な憶え方をする。


なんでそんなややこしい事をと思うのに、本人を前にするとちゃんと本名が出てくるところが謎だ。




「お疲れ様です。早く帰ってくださいね、課長」


「待っててくれてもいいんだけどな」


「お先でーす」




にっこりと笑って大崎さんに挨拶をする。

『すぐに』と言ったタクがしびれを切らす前に、そそくさとオフィスを後にした。


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