好きより、もっと。
聴こえない言葉。
止まらない時間
「タクッ!」
少し不機嫌なオーラを放つその人に、駆け足で近付く。
さっきの大崎さんの声に相当やられてるな、と想う。
いつもよりも顔が疲れてるし、それに何か考えている時の顔だ。
無表情に見える、その端正な顔は。
髭さえあるのか分からないような滑らかさと、人形のような睫毛の長さが見える。
作り物のように綺麗で、少し整い過ぎているけれど。
ほんの少しだけ変化を感じ取れるようになったのは、大きな進歩だと想う。
柔らかい髪の毛を揺らしながら、タクは私の方へ振り向いた。
そんな綺麗な顔で、こんな街中に立ってないでよ、と文句を言いたくなった事は黙っておこう。
周りの女の人たちが、タクを見ては振り返る。
近寄ることが出来ないオーラを発しているものの、遠巻きに見つめられる自分の彼氏を見て。
ヤキモチを妬かなきゃ女じゃない、と想った。
「お疲れ」
「ごめんね、待った?」
「別に。忙しいとこ悪ぃな。よかったのかよ?まだ仕事残ってたんだろ?」
「平気。明日早めに出勤すれば、なんてことないよ」
「ふーん。・・・飯、食いに行くか」
タクが歩き出そうとするのを見て、とてつもなく笑えてきた。
くすくすと笑いを堪える私を綺麗な笑顔を浮かべてタクが見つめた。
タクの目が笑ってないことは、見なかったことにしよう。