好きより、もっと。
「亜末、何?」
優しい声色で、甘く囁いてるつもりだろうけれど。
ポーカーフェイスのつもりかもしれないけれど、笑ってしまう。
「ハハハッ・・・ごめん。でも嬉しくて」
「は?」
「ほら、付き合ってすぐの頃は知らなかったから。好きな人の前で、感情を出すタクなんて」
知らなかったな、なんて笑うとタクはバツが悪そうに眼を逸らした。
その目線の先を一緒に見つめるのもいいけれど。
さりげなく差し出された左手を見つけて、指を絡める方がずっといい、と想った。
タクは私と付き合う前、未央ちゃんという一つ年下の女の子が好きだった。
初めて未央ちゃんに合ったのは、学内のオープンキャンパス。
黒のストレートロングに、真っ白な綺麗な肌。
日本人形のように滑らかなのに、顔立ちはハッキリとしている。
どこからどう見ても『美人』という言葉が相応しい子。
その子は、友達と群れる事もなく凛と立っていた。
初めて来たであろう大学の中でも、キョロキョロとあたりを不安そうに見つめることもなく。
制服を着ていなければ、高校生だなんて分からなかったかもしれない。
タクと私はオープンキャンパスの実行委員を手伝っていて、その子のことを教えてあげるとタクが走って行ったのを憶えている。
紳士的な表情を浮かべて、いつもと同じ、いや、いつも以上のポーカーフェイスを被る。
そのタクに、安心したように笑うその子は、とても綺麗で、可愛かった。
その後ろ姿が、今でも忘れられない。
その背中が言っていた。
その子のことが『好きだ』と。