好きより、もっと。
「付き合う前は、未央ちゃんにいい顔ばかりしてたから。好きな子にはそういう顔しか見せないんだろうな、って想ってたから」
タクは、無言で私の手をギュッと握りしめた。
こういう不器用なところを見つける度、少しずつ距離が近付いていったんだと想った。
結局、タクは未央ちゃんに一度も『好きだ』と伝えなかった。
言えば何か変わったんじゃないの、と詰め寄れば。
『言えば、何もかも失うことになっていた』
と、あまりにも悲しい声で答えた。
そんなタクに、その場で『好きだ』と告白したのだ。
弱ってるタクを見て言わずにいられなかった。
私がそんな風に想っているなんて考えたこともなかったようで。
すぐに受け入れるつもりもなかったようだけれど。
『嫌いじゃないなら受け入れて』という私の勢いに負けてくれたのだ。
未央ちゃんのことを好きで構わなかった。
ぐちゃぐちゃした気持ちのままで、構わなかった。
そのままのタクに、未央ちゃんを好きでカッコつけてるタクに。
カズのことを大切に想って、自分のことを痛めつけてるタクに。
私のことなんて、微塵も好きだなんて想ってないタクに傍にいて欲しいと想ったから。
お互いの好きなところなんて、これから増やしていけると想った。
だから、タクを押し倒して抱いてあげたんだ。