好きより、もっと。
「亜末。俺、三年間、東京へ転勤になった」
――――――何?何の話?――――――
「亜末」
タクの目は揺れていない。
それが、嘘じゃないことを物語っている。
自分の手が冷たくなるのが分かった。
いや。
心臓が、と言うのが適切かもしれない。
「いつ、から?」
カラカラになった喉から、なんとか声を絞り出す。
なんでビールを飲み干してしまったんだろう。
何でもいいから、何かを呑みこめば。
タクの言葉も呑みこめるのかな。
「十月一日から」
ねぇ。
あと一ヶ月半しかないじゃない。
タクはいつもそうだ。
自分の中で考えて。
自分の中で決めて。
何か言えるようになるまで、それを全部溜め込んで。
口に出した時には、私が反論する余地なんてないくらい、タクの気持ちは決まっているじゃない。
ということは、今、私が何を言ってもタクは行ってしまうのだ。
まぁ、仕事のことに口出しするつもりなんてないけれど。
――――――ねぇ。私は、どうしたらいい?――――――
「そ、っか。準備とか、どうしてる、の?」
「まだ何も。辞令が出たのも最近で。三年なんて長さになると思ってなかったから」
「そ、っか」
同じことを、繰り返すことしか出来なくて。
私の腕を掴むタクの温もりだけが、自棄に鮮明だった。
私、なんて言葉をかけるのが正解だろう。