好きより、もっと。
タクが私を真っ直ぐ見つめる。
その目に、どんな疑問をぶつけても応えてくれない気がして。
それでも、目を逸らす事が出来ない私は、その綺麗な顔を見つめ続けていた。
「なぁ、亜末―――――」
「おーっまったせぃっ!」
カズさんの威勢のイイ声が響いて、私達の席にやってきた。
待ち焦がれたビールを持ったカズさん。
でも、目線を向けるのがやっとで。
固まっている私達を見て、カズさんはきょとんとした顔を向けてきた。
いつもながら、軽く変顔みたいにふざけたカズさんが。
ただならぬ雰囲気を察知したのか、真面目な顔になる。
ねぇ、やめようよ。
そんな別れ話みたいな顔。
だって、そんなんじゃないじゃない。
そう、自分に言い聞かせて。
それでもやっぱり苦しくなる。
逃げたい。
逃げ出したい。
「どうした、アミ」
カズさんの真剣な声が、私にだけ向けられる。
あぁ。
タクは動揺していないんだ、と思い知らされた。
だって、タクには目線すら向けない。
だから、嫌でも気付いてしまうんだ。
タクは、平気なのかな、って。
「あ・・・、えと。私、帰る」
「えっ!おい、アミっ!!」
私を捕まえていたタクの手を思い切り振り払って、私はその場から駆け出した。
タクの焦った声と、カズさんの困惑した表情を目の当たりにしていたけれど。
そんなことに構うことなく、私は店を飛び出した。
後ろから追いかけてくる声が聞こえたので、エレベーターを待っていることなんて出来なくて階段で駆け降りた。
上から響いてくる足音に、追いつめられるように苦しくなる。
ビルのホールを抜け出して、目の前のタクシーに滑り込む。
自分の家の住所を告げ、動きだした景色を窓から眺めると。
そこには、悲痛な顔をした綺麗な私の彼氏が立っていた。
その呆然とした表情に向き合うことは、今の私には絶対出来なかった。
『アミ・・・』
タクの唇がそう動いたように見えたのは、私の願望かも知れない。
それでも。
名前を呼んで欲しいと想える愛しい人は、残酷な眼差しをしていた。
優しくて冷たい。
私の好きな人。
未だ、想い知らされる。
私の方が、あなたを大事にしてるって。