好きより、もっと。
「何?カズ?」
俺を見つめる目が、俺に問いかける。
信用しきった目で見られると、それを裏切ってやりたい衝動にかられるのは何でだろう。
ぐっとアミの頬に手を寄せて、少しずつ距離を近付ける。
それでも俺から逃げようとしないアミ。
わかってる。
俺がタクの弟で未央の旦那である以上、お前に何かをしたりしないけれど。
それでも此処から逃げようという本能すらないのか。
お前はもう少し『男』っていう存在を意識した方がいい。
仕事柄、性別の括りなんてない現場で働いているのだから、『男』と『女』という境界線が曖昧になっているのだろう。
―――――――ガタガタッ!ガシャンッ!
「タクッ!!」
聞こえた未央の声に、さっきまでの距離を保ったまま顔だけ向ける。
アミの目が大きく見開かれるのが分かったが。
それでも俺は離してやる気はねぇよ。
「タク・・・」
「和美、ふざけるのもいい加減にしろ。亜末を離せ」
息を切らして、汗だくで。
いつもの涼しい顔の拓海は、どこにもいない。
アミのための、必死な顔の拓海しか、いない。
「ヤだね。元々はお前が泣かせたンだろうが。ふざけんじゃねぇよ」
「そんなことをさせるために『亜末を頼む』って言った訳じゃねぇよ」
「じゃあ、どんなつもりだよ!自分勝手も大概にしろっ!」
アミを頭から抱き締めて、タクに向かって挑発をする。
そして、お前はまた黙り込むんだ。
ほらな。
お前はいつだってそうだ。
いい加減気付けよ。
何も言わないでいることが、相手をどれだけ弱らせて。
相手をどれだけ不安にさせるかを。