好きより、もっと。
アミの家に来る前。
拓海は俺たちの家に押しかけてきた。
遅い時間に連絡も無しに来るなんてこと、絶対にしないタクが来たということは。
アミと何かあった、ということを体現しているようだった。
聞けば、転勤の話をした瞬間にアミが逃げた、と。
それを追いかけなかったと言った拓海を、俺は思い切り殴った。
どうしていつも、冷静なフリをするのか、と。
アミが逃げたのは、拓海に追いかけて欲しいからに決まっている。
それすら分からないコイツを、我が兄ながら最低だと想った。
大人しく殴られる拓海を見て、わかってない訳ではないということは痛い程伝わってきたが、俺の怒りが治まることはなかった。
アミの性格を考えれば、タクに縋り付くなんてことしなかったはずだ。
必死に冷静でいようと強がったはずだ。
追いかけてくれないタクのことを一番理解しているアミだから、今追いかけて来てくれないタクを想ってアイツは多分、泣いてる。
お前にも俺と同じ強い焦燥感があるだろう?
周りのことなんて一つも気にせず、アミを攫って行きたいと想う気持ちがあるだろう?
俺には分かるんだ。
俺と同じ遺伝子の拓海。
だからこそ。
もっと自分の思うが儘にいて欲しい、と。
どうしてそれが分からない?
『亜末を頼む』という頼りない言葉に、『当たり前だ』とぶっきらぼうに答えて。
拓海に家のカギを投げつけ、未央と未希を連れて車に乗った。
未央と未希には申し訳ないが。
アミが心配でたまらなかった。
バカ兄貴のせいで、どうしようもない考えに呑まれているであろうアミが一人でいることが耐えられ無かった。
それを許してくれる未央を、心底有り難いと想った。