好きより、もっと。
見つめられる瞳
カズと未央ちゃんがいなくなったこの部屋は、自棄に静かだった。
平日のこんな時間にタクがいるなんて有り得ないことで。
夢の中にいるんじゃないか、と何度も瞬きをした。
けれど。
目の前の左頬を腫らした人物は紛れもなくタクで。
その痛そうな頬を何とかしてあげたくなった。
確か消毒液があったはず。
二人とも床に座り込んでいた。
そこから立ち上がろうとした私の手を、タクは強引に引いた。
そのせいでフラついて、私はその場を離れることが出来なくなった。
「どこ行くの?」
不安に揺れたようなタクの声。
あぁ、ごめん。
さっき逃げ出したばかりなのに。
私が傍を離れたら、また不安になるんだろうなと想った。
「消毒液取りに。その傷、何とかしないと」
淡々と言葉を掛ける。
さっきまでの不安は沢山あって。
だけど、カズに『拓海の言い分をちゃんと聞いてやれ』って言われてる。
ただ、素直にそんな態度を取れない私は。
心底可愛くないんだろうな、と想う。
だって。
いつだって突然のタクの言葉に動揺して。
我が儘を言ってはいけないと想う度に苦しくなる自分の気持ちがあった。
そんな気持ちは伝えては駄目なんだ、と。
勝手に決めつけていたけれど。
本当は、タクにわかって欲しかった。
とてつもなく自分勝手な言い分だけれど。
それでも。
どうして気付いてくれないんだろう、と。
必死に隠している自分の気持ちに気付いてい欲しい、だなんて。
自分勝手にも程がある自分に呆れるばかりだった。