好きより、もっと。
「ねぇ、タク?」
「何?」
私がソファーで仕事をしながら呼びかけると、タクはカウンターキッチンからひょい、と顔を覗かせた。
そんなに料理好きだったっけ?
いや、ありがたいけどさ。
時間は既に二十三時を過ぎている。
企画書の提出が迫っているから仕事が遅くなる、とタクに伝えたら、『俺も今日、遅いから』とそっけなく言われた。
言い方があまりにあっさりしていたので、機嫌悪いのかな、と思っていたら上機嫌で電話が来た。
二十二時半という仕事を切り上げたくなる、なんとも絶妙な時間に。
会社の下に着いた、と。
「なんで今日、会社に来たの?」
「・・・別に」
「ふーん」
タクが『別に』って言う時は、何か言いたいことがある時だ。
そんなことが分かる程この人の傍にいるんだな、と想いつつ。
何かを言われるんだ、と身構えしなくてはいけない自分が、少しだけ苦しかった。
キッチンからはお醤油とだしのイイ匂いがしてきた。
この男・・・。
顔は非の打ちどころがなくて、体系を含む外見はそこら辺のアイドルなんかよりもずっと整っている。
性格も穏やかで、カズみたいな粗暴さや意地の悪さもない。
その上、料理も出来るとか。
正直、女としての自信、失いそうです。
いや、知ってたけどね。
うちの彼氏がいかにパーフェクトか、なんて。
ずっと。
ずっと、一緒にいたんだから。