好きより、もっと。



「とりあえず、仕事道具片付けろ。メシにしようぜ」


「はいよー」




あ、でも。

口が悪いのは兄弟揃ってだわ。

素の時は口が悪い。

それは、私だけが知っているタクの一面で他の人が知らない秘密のようで、とても嬉しい。



言われた通り、リビングテーブルに散乱している仕事の資料をまとめて、ダイニングテーブルへと腰掛ける。

湯気が部屋に充満している気がして、エアコンの温度設定を少しだけ下げた。



目の前に運ばれてきたのは、冷水をくぐったであろう蕎麦だった。

少し和らいだとはいえ、残暑厳しいこの季節には、さっぱりでありがたい。

と思いきや、何故か『せいろ』である。



それも、『かしわせいろ』。



タクに目線を向けると、色気たっぷりに汗を拭う姿が見えた。

キッチンの暑さで滴る汗さえ、この人は色気に変えてしまうんだ。



目のやり場に困るっっ!!




「ねぇ、タク」


「なんだよ、食うぞ」


「いや、作って貰っといてなんだけどね?」


「なんだよ」


「なんで、せいろ?まだ冷たいお蕎麦でもいいんじゃないの?」




作ってもらっておいて文句を言うと、タクの機嫌が悪くなるのを分かっていて言ってしまった。

その後、しまった!と思ったけれど。

言ってしまった言葉を取り消すことなど出来はしないのだ。


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