好きより、もっと。
「亜末」
やってしまった、と想ってタクの顔を見れずにいると、タクから優しい声が降ってきた。
その声は、とても甘くて甘くて。
なんだか赤面してしまいそうな呼び方だった。
顔を上げるとタクは笑っていて。
その顔は、なんだか幸せそうな顔ではなかった。
どちらかと言うと苦しそうで。
私まで切なくなるような、そんな表情だった。
「・・・いいじゃねぇか。亜末、好きだろ?『かしわせいろ』」
「・・・うん」
大好きだよ。
お蕎麦自体が大好きで、お気に入りのお蕎麦屋さんに一人で行くのは当たり前。
夏は冷たいお蕎麦を啜って満腹になるまで食べ切るし。
冬は決まって『かしわせいろ』ばかり食べている。
「・・・今年の冬は、中々一緒に食えねぇからな・・・」
「え?」
「ほらっ!手ぇ、合わせろ」
「あっ、ハイッ!」
目の前でパンッと二人手を合わせて、顔を見る。
目が合うと、口の端だけ上げたような笑顔を作ってくれた。
「「せーのっ、いただきます!」」
二人でご飯を食べる時は、必ず『こう』するんだ。
どちらから決めた訳でもなく。
自然と、そうしてきたんだ。
今までは。
本当はわかってるよ。
今年はきっと、一緒に食べられないだろうから。
まだ寒いと言えない時期に作ってくれたこと。
わかってるよ。