好きより、もっと。
タクの作ってくれた『かしわせいろ』は、私好みの薄口で、だしがしっかり効いている。
その上、鶏むね肉の脂身も取ってくれてある。
タクの好みは、濃い口で鶏もも肉。
出来れば皮に少し焦げ目をつけて、焼いて出た脂もだしに入れてしまうくらいの濃厚さだ。
だから。
タクが、私のためだけに作ってくれたと言うことが、すぐに分かる。
時折、口から零れるように『美味しい』と言葉が漏れるだけで、無言でお蕎麦を食べ続けた。
汗が流れても、気にせず。
タクが満足そうにこちらを見つめているのに、少しだけ目線を向けて。
目が合う度に満足そうな顔をするタクは、目を伏せる瞬間にとても寂しそうな顔をしていた。
――――――何か言いたいことがあるんだね――――――
自分のことが嫌いになりそうだ。
タクの気持ちに敏感なのは私のいいトコロだけれど。
気付かずにいられたら、どんなに良かったか。
この後、この食器を片づけたら。
タクはまた容赦なく私に『何か』を告げるだろう。
それがどんな内容か、なんて事は考えるまでもなく。
それは間違いなく転勤に関わる事なんだろうな、と予想がついた。
そして。
私にとってその話は、決して楽しいと想える話で無いことも分かってしまった。
タクが出発するまで、あと二週間。
もうすぐ、こうして一緒にご飯を食べられなくなる。
最近一緒に居過ぎたからこそ、それをとても寂しく想った。