好きより、もっと。
「で、何余計なこと考えてる?」
後ろから突然聞こえた声にビクリと肩を揺らすと、楽しそうに笑うタクの声が聞こえた。
足音を立てずに近付いてくるのは、心臓に悪い。
こういう悪戯なところは、ほんとカズとそっくりなんだから。
「ビックリするから、急に声掛けないでよっ!」
「別いいだろ、それくらい。で、その眉間のシワは何だよ?」
「クリームが目に入らないように力入れてるの」
「へぇ、で眉毛も下がってるのかよ」
「そうだよっ!もう、落ち着いて顔も洗えないじゃない」
「へいへい。ま、そういうことにしといてやるよ」
足音が遠ざかる気配がないってことは、まだその場に留まってるってことだ。
化粧を落とすところを見られるのは、極力避けたいのを知っているくせに。
なぜタクがそこに留まっているのか。
私には理解できなかった。
諦めてクレンジングを洗い流す作業をし、洗顔までしっかりと終わらせる。
泡だらけになった私の顔をじっと見つめられているのは、本当に居心地が悪い。
ただじっと待っているだけならリビングでもいいだろうに。
洗面台の入口で通せんぼをするように立っているタク。
洗面所には水道から流れる水の音ばかりが響いていた。