好きより、もっと。
「わかった、約束する」
「ん。って言っても、お前がそんな器用なこと出来るなんて、欠片も想ってねぇけどな」
「・・・結局なんなの?そんなに私のこと貶したいワケ?」
「顔見て話せねぇのは、辛いなって言ってんの」
ねぇ、拓海。
こんなに素直な言葉をくれるのは、もうすぐ離れ離れになるからなんだね。
どうして、こんな時にしか素直になってくれないんだろう、って想うけれど。
そこが拓海らしいから、なんか文句を言う気にもならないよ。
洗面台の前で、すっぴんで。
ロマンチックの欠片もない日常だけれど、そんな当たり前が愛しい。
タクの頬に自分の手を伸ばして、その肌に触れる。
滑らかなその感覚を、どうしたら憶えていられるだろう、と想う。
「拓海、大好き」
「うん、知ってる」
「拓海は?」
「俺も」
「俺もじゃわかんない」
「・・・」
「ねぇ、拓海は―――――」
本当に狡い。
わからない訳じゃないけど、今はどうしても言葉が欲しかったのに。
結局タクの貪るような、でも慈しむようなキスに溺れてしまった。
そのキスを受け止める度、タクに『好きだ』と言われているみたいだった。
角度を変えて何度もついばむようなそのキスに浮かされて。
思考回路の全てが、タクで埋め尽くされてしまったみただった。