好きより、もっと。
届かない言葉。

800km side拓海




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「本日から配属になりました、藤澤拓海です。宜しくお願い致します」




朝から盛大な拍手が湧き上がる。

たかが出向の俺に挨拶をさせて、どうしたいんだか。

まぁ、プロジェクトリーダーとしての就任なので顔見せくらいしておこう、という会社の意向らしいけど。




俺、苦手なんだよな。

こういうの。

めんどくせぇことになるの、目に見えてるし。




「という訳で、藤澤君をリーダーに迎えてプロジェクトを進めてもらう。分からない事も多いと思うので、しっかりサポートしてやってくれ」


「出来るだけ早く慣れていきたいと思ってますので、厳しくご指導ください。宜しくお願いします」




出来るだけ人の良い笑顔を顔に張り付けて、一分の隙もない表情にする。

コレは、社会人になる時にカズと身に付けた技だ。



なんでだか知らないが、俺たちは男に目の敵にされる事が多い。

いや、本当はこの容姿のせいだと分かっている。

だからといって、この容姿でなくなるなんてことは不可能なので、処世術が必要だった。




それが、この顔だ。

隙を見せずに笑う。

嫌悪感を出させないように控え目に、誠実そうに。

それでいて、熱意のあるように、というとんでもない気を遣う作業なんだ。



この顔をするだけで、本気で疲れる。

めんどくせぇ。


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