好きより、もっと。
くすくす笑いながら女将さんが襖を閉めていく。
心なしか顔が赤くなってる廣瀬さんを見て、くすりと笑いが込み上げる。
この冷静な人を子供扱いするなんて、やるなぁ、なんて感心していたが。
俺の視線に気がついた廣瀬さんは、何でも無かったようにまた仕事の顔に戻ってしまった。
まるで、見間違いかと思う程素早く。
それを見て、俺は吹き出した。
「・・・フッ。・・・フハッ!」
「なんだよ」
「いえ、何も・・・フッ」
「そんなに笑ってると、まだ飲ませるぞ」
「いやっ!!それは、ちょっと・・・」
「冗談だ」
「廣瀬さんも、素の顔の方がイイですよ」
「そりゃどーも。藤澤、その顔、苦労しただろう?」
『顔』という表現は、正確ではない。
廣瀬さんが言いたいのは『外見』という意味だ。
「まぁ、それなりには。廣瀬さんは?」
「藤澤ほどじゃねぇよ。それに、兄貴に対処方聞いてたし」
「お兄さん、いらっしゃるんですか?」
「あぁ、四つ離れてるからもう四十歳だけどな」
そう言いながら、まだ酒を口に運ぶ。
とんだ化け物もいたもんだ。
亜末より絶対飲むぞ、この人。
「で、今想い出してるのは恋人か?」
「―――ッ!!」
「藤澤、案外顔に出るよな」
「・・・廣瀬さんに、言われたくありません」
「俺は今、出してるからいいんだよ。お前みたいに、いつも外ヅラでいられるかよ」