好きより、もっと。
些細な変化
「藤澤!高田!明日の最終打ち合わせ、入るぞ」
「わかりました!一本電話入れないといけないんで、高田と先行ってください!」
「高田、大丈夫か?」
「はい、私はすぐにでも。カズ、電話よろしくね」
任せろ、と返事をいう前に先方に電話は繋がってしまったらしい。
ので、片手を軽く上げて目線だけで私に応えていた。
クライアントと電話をしながらだというのに、何とも器用だなぁ、と呆れながらも感心した。
「高田、行くぞ」
不意に呼ばれた声に、はい、と返事をして後ろを付いて行く。
大崎さんの声は色気を、この人の背中は安心感を含んでいた。
夏の大きなイベントが終わって、いつもの年なら落ち着くはずなのに。
今年はいつにも増して忙しい。
それを全く感じさせない、うちの会社の男たち。
そんな彼らを、心底頼もしいと思った。
ミーティングルームで当日の流れを最終確認する。
広げた資料は会場図とスタッフ配置図。
それと、目が痛くなりそうなタイムスケジュールだった。
翌日に控えたイベントは、秋商戦終盤の目玉イベントだ。
大手のクライアントの仕事は、やっぱりどこか緊張する。
それを、大崎さんは目ざとく感じていたみたいだ。
「高田、ちゃんと寝てるか?最近、朝早くでもバッチリメイクじゃないか」
「なんですか、急に!?そんなこと言ってると、あかねに『セクハラ』って言われますよ」
「いや、綺麗にして出勤してくれるのは本当に嬉しいんだけどな。純粋に見惚れるし」