好きより、もっと。
思わず、ミーティング用の資料を準備する手が止まる。
向けられている視線に目を合わすことができないまま、私は手を動かすフリをした。
「まっ!大崎さんってば、口がお上手ですね~。本気にしちゃいますよ~」
「いや、そんなとこで嘘吐かねぇよ」
「またまたぁ。そんなこと言ってると――――――」
「寝てないんだろ?」
言い逃れを許してくれない大崎さんは、良い上司でありすぎると想った。
部下を良く見ている、というのは、周りを全て把握しているのと同じだ。
一人だけを見ていれば変化に気付くのは簡単かもしれない。
けれど。
沢山の中の一人に気が付くのは、そう簡単なことではないだろう。
「・・・寝ては、いますよ。でも、夏は毎年緊張感がありすぎて、熟睡ってわけにはいかないんです」
「明日が終わったら、一か月は休めないんだぞ?そんな状態で、やってけると思ってんのか?」
愚問だ。
答えは『ノー』だ。
夏は野外、屋内問わずイベントは多く、しかもライブも重なって超多忙スケジュールをこなしてきた。
夏だから!と乗り切ることの出来る過密スケジュールも、秋まで持ち越せば体力なんて持つわけがない。
加えて。
今年はタクの引っ越しの準備も手伝った。
どんなに過密スケジュールでも。
どんなに疲れていても。
逢いたかったから。
離れる前に、私の記憶に溺れるくらい、憶えていて欲しかったから。
離れても拓海を想い出せるように。
苦しいくらいに、逢いたかったから。