好きより、もっと。
家に着いたらまだ20時前で、どうしてこんなに早く此処にいるんだろう、と想った。
鞄をリビングに無造作に置いて、着ていたスーツのジャケットを脱いだ。
お腹が空いているはずなのに、何をする気にもなれなかった。
スーツのパンツが皴になるのも気にせず、私はそのままベッドにダイブした。
「・・・さいてー・・・」
自己嫌悪に陥って、それでも泣くことはなかった。
昔ならこんな時、いとも簡単に泣けたのに。
悔しいからって泣くのは一人の時に限る。
なのに、今の自分では泣けないことを、私はわかっていた。
布団に埋めていた顔をリビングに向ける。
目に入れたくない光景を見て、自分が現実にいることを受け入れなくては。
――――――ブーッブーッブーッブーッ。
ブーッブーッブーッブーッ――――――
鳴った瞬間、さっきまで寝そべっていたとは思えないスピードで起き上がり、携帯電話を覗き込む。
待ち望んだ人であればいい、と。
そんな期待を込めて、携帯電話を見つめる。
自分の顔がゆるゆると表情を作っていく。
ディスプレイに浮かんだ名前。
それは、『藤澤和美』だった。
いつだって、そうだ。
私の大切な人の弟は、信じられないくらい私を大切にしてくれる。
「・・・ふっ、カズのばかぁぁぁっ!!」
なんで。
なんで、一人で泣けないのに。
カズの名前を見ると、泣けてくるんだろう。
私は。
甘やかされるのがわかっていて、電話に出られるほど素直じゃない。
鳴り続ける電話を目に写すこともなく。
私は、ベッドに顔を埋めて泣き続けていた。