好きより、もっと。
『わかんねぇならいいけどな』
反芻する大崎さんの言葉が響く中、スタスタとミーティングルームを抜け出そうとする。
その背中は、覚悟を決めた時の大崎さんのオーラで。
俺はその背中を見て確信した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」
出て行こうとする背中に向かって手を伸ばす。
捕まえた手はピクリとも動かなくて、動揺なんて一つもしていなかった。
「お前『達』に出来ないことを、俺がするだけだ」
「何・・・をっ・・・」
「近くにいるっていうのは、それだけで意味があるんだよ」
不敵に笑って、するりと俺の腕を抜けていく。
多分、力の加減なんて出来てなかったはずなのに、いとも容易く俺の手の中から大崎さんは逃れて行った。
やべぇ。
これは、マジでやべぇ。
薄々気付いてはいたんだ。
本田は、ちょくちょく俺に報告してきてたし。
朝のセクハラまがいの発言だって、ちょっとイラついて突っかかったこともあるし。
何より。
あの動揺のなさと自信が。
あの人が、大人であることを現していて。
俺『達』と牽制したあの人は、本気であることを暗に示していた。
やべぇよ!!!
とりあえず、アミに電話だ!!!
何かあってからじゃ遅いんだよ。
俺だって、拓海と同じくらいお前のことを心配してるんだよ。
コールを鳴らすも、アミが出るわけもなく。
理由を聞いたであろう俺からの電話に、アミはきっと出ないだろう、と想った。
けれど。
これをかけ続けないと、俺は絶対に後悔する。
なぜだか、そんなことを想っていた。