穴の空いた服


そんなにも嫌いな父でも勿論良いところもあった。

小学校低学年ぐらいだったか。父と中上は夕日の当たる縁側に座り、父の話を聞くのが好きだった。どんなに下らない昔話でも、どんなに下らない喧嘩をした後でも。その話は好きだった。



<あのなあ、実はこの服お隣の藤川さん家がくれた服なんだ。古いよなあ。よくこんなの取っといたって感じだよな>

<何で、そんな古い服を取っておいて、俺らの家に捨てるの?>

<捨てるんじゃねえ。くれたんだ。
……この服。藤川さんが成人になって、此処からは3時間も片道でかかる会社につとめて、給料を貰って、始めて買った服だそうだ>

<そうなの? だったら、自分でとっとけばいいじゃないか>

<んー。藤川さんとこに娘も息子も奥さんもいないって知ってるよな>

<……うん>

<それでな、この間藤川さんがくも膜下出血で倒れて……、その、入院してるんだ。それで、俺が病院に行ってこの服をいただいた>

<こんな穴だらけなのに、大切なんだね>

<ああ、物には物語があるんだ>

<そうなんだ>

<物だけにな>

<ははははは>
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