穴の空いた服


懐かしいやら、気持ち悪いやら、思い出したくも無かった。あんな嫌いだったのだから。

ぼーっと、そんなことを考えていると不意に目の前に老人が立っているのに気が付いた。

「ええと、すみません。まだ始まってないんですが…」

焦ったようにそう言うと、老人は静かに笑った。

「それはよかった。これを、置いてくれませんか?」

そう言って老人は砂ぼこりで汚れた鞄から1着の服を取り出した。

「えーとそのこれは?」

明かに使い古して捨てる寸前のような服だ。

所々が切れていてとても売れるとは思えない。

「置くだけでいいんです。置いてください。売れなかったら私がフリーマーケットが終わるときに回収しに来ますから」

老人の必死そうな姿に「わかりました」としか言いようが無かった。

その穴の空いた服を受け取ると老人はさっさと行ってしまった。

「何がしたいんだか」

中上は用意していた厚紙を丁寧にハサミで切り、50円と書いて服に貼った。

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