「異世界ファンタジーで15+1のお題」二
思った通り、私はあの長い夢から覚めた。
だが、目の前のこのコーヒーの様子から察すると、私が眠っていたのはほんの束の間のことだったのだろうか?
それに加えて、老主人の言った「おかえりなさい」とはどういう意味なのか…



「ご主人、私はどのくらい眠っていましたか?」

「お客様は眠ってなどいらっしゃいませんよ。」

「そんなことはないでしょう。
私は夢を見ていたのですから。」

「そうなんですか?
では、私が、コーヒーを持って来る間に眠ってらっしゃったんでしょうか。」

やはりそうだったのか…
長い夢だと思ったが、私が眠っていたのはほんの短い時間だったのだ。
そういえば、夢から覚めた今でも私は夢の内容を鮮明に覚えていることに少し驚いた。

「さぁ、冷めないうちにどうぞ。」

老主人が私にコーヒーを勧める。
私はコーヒーをゆっくりと味わった。
老主人は、なぜだか私の傍を離れようとせず、テーブルの脇に立ち尽している。
そのことが私には奇妙に感じられた。
コーヒーの味は深くまろやかで、こんな美味いコーヒーならもっとお客が入っていても良いのに…等と考えながらコーヒーをすするうちに、私はふと自分の服の汚れに気が付いた。



(そうだ、これはあの時の水晶の土を掃った時の…)



そう思って、またすぐに思いなおした。
あれは夢の中のこと…私はずっとここにいたはずなのに、なぜ…
無意識に懐に手が入った。
そこで、私の指先はひんやりとした冷たいものに触れた。



「それは…!!」



私が取り出した水晶の塊を、老主人が放心したようにみつめていた。
その皺がれた瞳には熱いものが込み上げ、細い腕がそれに触れたそうに差し伸ばされた。
私は、その動作に応えるように、老主人の手の平に水晶の塊を乗せた。

一瞬、老主人の動きが止まったかと思うとその場にがっくりと膝を着き、それから堰を切ったように声を上げて涙を流し始めた。
突然のことに私は驚き、老主人に駆け寄った。




「大丈夫ですか?」

老人は両手で大事そうに水晶を包み込むようにして、ただ黙って何度も頷いた。
私は、老主人を席に着かせ、彼の気持ちが落ち着くのを待つことにした。
泣きじゃくる彼を見ながら、私は考えた。

なぜ、夢の世界で掘り出した水晶を私は持っていたのか…
どう考えてもわからない…

私は、ふと目についたカウンターの上の水差しと小さなグラスを持って老主人のテーブルに向かうと、グラスに水を注いで老主人に差し出した。



「……ありがとうございます。
お客さんにこんなことさせて、すみません。」

「そんなこと、かまいませんよ。」

老主人は、グラスの水を一気に飲み干した。
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