「異世界ファンタジーで15+1のお題」二
「どうもありがとうございました。」

老主人は、水を飲んでやっと落ち着きを取り戻したようだった。



「……お客さん…
こんな話を知ってますか?」

老主人が遠くをみつめるような瞳で、そんなことをぽつりと呟いた。



「どんなお話ですか?」

もしかしたら、老主人があの「特別な椅子」について語ってくれるのではないかと私は期待した。



「どうしようもなく悲しい想いをした者の魂は、冷たい水晶になるって話があるんですよ。
しかも、それだけじゃ足りず、冷たい水晶は地中深くに潜るんだそうです。
誰にもみつからないようにね…
地中深くに潜った水晶は、時が経つとやがて落ち着きを取り戻し、その時になってやっと自分の置かれた状況に気付きます。
そして、その暗い土の中に一人ぼっちでいる寂しさにいたたまれなくなり外へ出たいと願うのですが、もう遅い…
どんなに後悔しても自分の力で外へ出る事はもう出来ないのです。」

老主人の話は、特別な椅子についての話ではなかった。
先程、老主人があんなに取り乱したのは、この話を思い出したからなのだろうか?
しかし、私にはその意味がわからない。
この話が、それ程までに感情を揺さぶる話だとは到底思えなかった。



「それで…
水晶はそのままずっと土の中にいるんですか?」

もしかすると、老主人の話には何かどんでん返しのような結末があるのかと思い、私はそんなことを尋ねてみた。



「ええ…そうです。
冷たい水晶は、ずっと一人ぼっちで暗い土の中で悲しみに暮れているのです。
……ごく、一部の者をのぞいて…」

「ごく一部の者…?」

「そう…ごく一部の幸運な者だけが、外へ出ることが出来ます。
そして、その中でもさらにごく一部の幸運な者だけが、会えるのです…ずっと待っていた人に…」

「待っていた…人…?」

そうだ!
瑞月や玻璃が言っていた。
私には「待っている人」がいると…



「待ち人は、水晶を掘り出してくれる人をいつまでも待ちました。
どうしても諦められなかったのです。
待ち人は、冷たい水晶にさせてしまった人に、どうしても謝りたかったのです。
辛い想いをさせたことを…悲しい想いをさせたことを…
そして、伝えたかったのです。
その人のことを誰よりも深く愛しているということを…」

老人の瞳には今にも零れ落ちそうな涙が浮かび、それを零さないようにするかのごとく、顔を上に向けていた。
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