「異世界ファンタジーで15+1のお題」二
不思議な話だと思った。
まるで、その話は老主人そのものの話のように聞こえた。
しかし、良い年をした人間が、そんな御伽噺を本気で信じるだろうか?
そうは思うのだが、今の話を聞いていると私が老主人に手渡した水晶は老主人が長年待ちわびた水晶のように聞こえる。
だが、そもそも、その水晶自体が本来ここにあるはずのないものだ。
なにしろ、私がそれをみつけたのは夢の中でのことなのだから…
そんなものがここにあるのはおかしい。
混乱する思考の中で、私は、あることに思い当たった。



(そうか…!これは夢の続きなのだ。
先程、目覚めたと思ったのが実は夢の中の出来事だったのだ!)

それならば、理解出来る。

やっと、そのからくりに気付いた私はその場から立ちあがった。



「どちらへ…?」

「少し、風にあたってこようと思いましてね…」

「そうですか…
もう、行かれるのですね。
……本当にどうもありがとうございました。
あなたのおかげで、私も彼女も行くことが出来ます。」

「行く…?…どこへですか?」

「遠く果てない場所…なんて言ったら気障ですかね…」

老主人が微笑んだ。
まるで、少年のように無邪気な笑顔を浮かべて…



「では、また来ます。」

「ありがとう…本当にありがとう…」

老人の声と一緒に女性の声が聞こえた気がしたが、そこには女性等いない。
きっと私の気のせいだったのだろう。



私は町の方へ向かって歩きだした。
ここから歩いていけば、水晶の丘に戻るはずだ。
そう思っていたのだが、しばらく歩いてそうではないことに気が付いた。



(そうだ…この場所は…!)



歩きながら、私の記憶が少しずつ思い出されて来た。
この場所は、喫茶店をみつけたあの町だ。
私はこの町の宿屋に泊まっていたのだ。
町に近付くに連れ、私はそのことを鮮明に思い出した。



(まさか…!!
では、ここは夢ではなく現実だというのか?
そんな馬鹿な…!)



薄暗くなる町の中を、私は足早に宿屋を目指した。
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