「異世界ファンタジーで15+1のお題」二




「あ…お帰りなさい。
なにか面白いものはみつかりましたか?」

そう言ったのは、宿屋の主人だ。



「あの…おかしなことを聞くようですが、私がでかけてからどのくらい経ってますか?」

「え……?
何ですか?なにかのまじないか何かですか?」

「どうか教えて下さい!」

「えっと、お客さんが出ていかれたのが昼前だから…」

「昼前って…今日の…ですか?」

「……どういうことです?
私をからかってらっしゃるんですか?」

「……いえ。
そうではないんです。」

どういうことだ…
ここは、現実の世界で、私が昼前に出かけてからまだ数時間しか経っていないということなのか?
ならば、なぜ、夢の中で得た水晶が私の手元にあった?
私の過ごしたあの時間が、すべて現実なはずはないのに…

私の頭の中は、収拾がつかないほどに混乱していた。
その晩は、主人に寝酒をもらい早めに床に就いた。
明日の朝、目覚めた時にはすべてが夢だったと思えることを願いながら…



早くに寝過ぎたせいで、夜明け頃、目が覚めた。
目覚めた後も、私は、あの出来事をすべて記憶していた。
出来る事なら、忘れてしまいたかったのに…

朝食の時間に、私は宿屋の主人にあの町外れの喫茶店の話をした。



「ご主人は、あの喫茶店に行かれたことがありますか?」

「喫茶店?どこのです?」

「町外れのですよ。
あそこのコーヒーは思いがけず良い味をしていましたよ。」

「町外れのどこです?」

私は、喫茶店の場所を伝えたが、宿屋の主人はがんとしてそんなものはないと言う。



「じゃあ、これから一緒に行きましょう。」



あると言い張る私に、宿屋の主人がそんなことを言い出した。
そこまでしてもらうこともなかったのだが、主人も引っ込みがつかなくなったようだ。



「町のうんとはずれですよ。」

「お客さん、私はこの町で生まれて育ってるんですよ。
いくらはずれのことでも知らないはずはありませんよ。」

やがて、私達は町を抜け、あの場所に着いた。



(……そんな馬鹿な…)



「どこです、お客さん?
もっと向こうですか?」

私はその言葉に何も言い返すことが出来なかった。
なぜならば、そこにはなにもなかったのだから…



「ご主人…申し訳ありませんでした。
どうやら私の思い違いだったようです…」

私は力なくそう呟いた。
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