「異世界ファンタジーで15+1のお題」二
緩やかな傾斜を登って行く。
空の青と緑の台地を分ける地平線が広がり、どの花なのかわからないがどこからか甘い香りが風に乗って運ばれて来る。
自然と深呼吸でもしたくなるような、そんな気持ちの良い丘だった。
さくさくと草を踏みしめる音と感触が、妙に心地良い。



「ご旅行ですか?」

不意に後ろから女性の声がした。
振り向くと、そこには若く美しい女性が微笑みながら立っていた。
人の気配等まるで感じなかったのに…そう思ったが、考えてみればこれは夢なのだ。
こういうことがあっても少しも不思議はない。



「ええ。そうなんです。
気ままな一人旅です。」

「まぁ、うらやましい。
私は、この町を出たことがないんです。
他の町には、いろいろと面白いものや美しいものがあるんでしょうね。」

「あなたも機会があれば、どこかにでかけてみられると良いですよ。
世界は広いですから……」

「私には無理ですわ…」

女性は、俯き寂しそうな表情を見せた。
何かいけないことでも言ってしまったのだろうか?
今の短い会話を思い出してみても、特に思い当たるものはない。
私は気を取りなおし、話題を変えた。



「ここは、なぜ、水晶の丘と呼ばれているのですか?」

「それは、この地にたくさんの水晶が埋まっているからです。
とても、たくさん……」

「こんな所に水晶が?!
私にもみつけることが出来るでしょうか?」

「今までに見つけた人はほとんどいません。」

「たくさんあるのに…ですか?」

「そうです。」

女性は、そう言っておかしそうにくすりと笑った。



たくさんあるのに、みつけた者がほとんどいないとはどういうことなのか?
まるで、喫茶店のあの老主人のようなことを言う…

私は、他人から少し変わっていると言われる事がよくあるが、そういう性格のせいで夢の登場人物もおかしなことを口走るのだろうか?



「これから、どちらへ?」

「あ…あぁ…それはまだ決めていないんですが…」

「丘の向こう側に町がありますよ。
宿もありますから、行ってみられてはいかがですか?」

「そうですか。
ありがとうございます。
では、そうすることにします。」



女性は微笑みながら、私を見送ってくれた。
退屈そうにも見えたのに、私を町へ追いやるようなことを言うのはなぜだろう?
いつもの癖で、すぐに原因を突きとめようとしてしまう。
馬鹿馬鹿しい。
ここは夢の中。
そんなことを考える必要はないのだと思い直し、私は、丘を下り始めた。
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