go way
比較
必要以上に大きな玄関。
下駄箱には百合の花が飾られ
高級そうな靴の中に
薄汚れたスニーカーが寂しそうに置かれている。
薄暗い玄関の電気をつけると明るさを取り戻す。
薄汚れたスニーカーを手に取り
靴紐を結び靴を履く博貴。
「毎日毎日 何処いってん。
お兄ちゃんをちょっとは見習ったらどうなん?」
嫌味なほどキーキー声の母親。
「うるせっ。勉強して何になるん?
兄貴みたいにいい成績とっていい大学いて
いい会社にでも入れって。アホやないの。」
早口に捲くし立てる博貴。
その顔は何処となく寂しさと
諦めの二つの表情が存在する。
「博貴のために言とるんやよ。」
博貴の態度に母親の口調も強くなる。
「ちゃうやろ。自分等のためやんけ。
世間体やろ?僕が恥ずかしいやろ?
兄貴みたいに頭が良い訳やないし、
兄貴みたいにいい子やない。せやろう?」
腹の虫のおさまらない博貴。
バタバタ
と二階の階段を下りてくる兄。
「もう行くん?忘れ物はあらへん?」
さっきまで博貴を怒鳴っていた声は何処へやら。
優しい女の声で問いかける母親。
「ないわ。ってか外まで聞こえるで。
博貴もいいかげんにせいや。」
博貴を横目に靴べらを使い革靴を履く兄。
「誰のせいやと思ってん。もうええよ。
もうたくさんや。ほっといてくれや。」
表情一つ変えず母親から兄へと矛先を変えると
乱暴にドアを開け外に飛び出す博貴。