初恋Daysーあの場所で、また逢えたなら

文化祭も、あっというまに1日目が終わっていく。



夕暮れで、空がオレンジ色に染まる中、ヒコーキ雲の白い筋が見えた。



クラスメートたちが下校していく中、俺は教室の前の廊下から、窓の外を眺めていた。



「おつかれ、成ー」



クラスのやつらが声をかけて帰っていく。



「おー。また明日なー」



そう言って手を振ると、廊下の向こうから華が歩いてくるのが見えた。



俺と目が合い、少し気まずそうな表情を見せた華。



華が俺の前で立ち止まる。



「成……」



「ん?」



「ブレザー、ありがとね」



「あ、うん」



俺は華からブレザーを受け取り、袖を通した。



「成……あのさ……」



華はうつむく。



「なに?」



普通にしなきゃな。



「ううん、なんでもない……」



華の様子がヘンだ。



もしかして俺がキスしたこと、バレてるとか?



いや、寝てたよな?



うん、寝てた。



じゃあ華の、この感じはなんなんだ……?



やめやめ。考えるのはよそう。



もう忘れるんだ。



「華、色羽は?」



俺が聞くと、華はうつむいたまま答える。



「見てないけど……」



「どこ行ったんかな、色羽のやつ。さがして帰ろうぜ?」



「うん……そだね」



華はその場から動こうとしない。



「なにしてんだよぉ。ブタ華。早くカバン取ってこいよぉ」



俺が笑いながら言うと、華は顔を上げた。



「なっ……またその呼び方っ!」



「フハハッ。怒ったんでブヒッ?」



「もぉ、成っ!」



走って逃げる俺を、必死に追いかけてくる華。



「待ちなさいよっ」



「やだよーんっ」



あの時はどうかしてたんだ。



なにもなかった。



俺たちの間には、なにもなかった。



そう思うことにするんだ。
< 169 / 328 >

この作品をシェア

pagetop