初恋Daysーあの場所で、また逢えたなら
そのあと、出掛ける前にお母さんが作ってくれたお弁当をふたりで食べた。
お母さんの手作り料理は、いつだって美味しい。
それでも綺麗な青い空と青い海、そして砂のお城を見ながら食べるお弁当の味は、格別だった。
「うまかったー」
「おいしかったねー」
「腹いっぱい」
「あたしも」
あたしたちは裸足のまま、砂浜の上に並んで座って海を見つめていた。
「色羽」
「んー?」
「どうして海に来ようと思ったの?」
「あーうん。このまえさ、家で探し物してたら、偶然アルバム見つけてさ」
「アルバム?」
「うん。母ちゃんと2歳の俺……ふたりで写ってる写真があってさ。父ちゃんが撮ったんだろうな」
色羽は、切なそうに微笑む。
「この海だったの?」
「写真の裏に、日付とこの海岸の名前が書いてあった」
「そっかぁ」
「母ちゃんが死ぬ前、最後に俺を連れてきた場所だったっぽい。そのあとの写真は1枚も残ってなかったから」
「お父さんとお母さんと色羽……家族3人で最後に来た場所がここなんだ?」
「……そうらしいな」
もうすぐ色羽のお母さんの命日だったことを思い出した。
色羽が3歳のときにお母さんが亡くなってるから、もう15年になるんだ。
「まぁ、だからってこの場所に来てみても、やっぱり母ちゃんのことは全然思い出せねぇや……」
あたしは、色羽の悲しげな横顔を見つめる。
「まだ2、3歳だったんだから仕方ないよ」
「父ちゃんは年を取ってくけど、遺影の母ちゃんはきれいなままでさ。なんか……時間の流れを感じるよな……」
「うん……」
普段はお母さんの話なんてほとんどしない色羽が、今日はどうしたんだろう。
でも話してくれてうれしい。
アルバムを見つけて、お母さんのことが恋しくなったのかな……。