初恋Daysーあの場所で、また逢えたなら
色羽のお父さんは少しの間黙り込んだあと、遠くを見つめたまま話し始めた。
「色羽の母さんが亡くなってから、色羽のために必死に働いてきた……」
成もあたしも、おじさんの横顔を見つめる。
「いや、いま思えば……色羽のためだって自分に言い訳していたのかもしれない」
言い訳……?
「本当は仕事に打ち込んで、妻を亡くした悲しみから当時は逃れたかったんだ……あの頃はまだ俺も若くてな。自分のことしか考えてなかった」
「おじさん……」
「家に帰るのも遅くて、朝も早く出かけて。休みなく仕事して……。色羽が小さい時も全然遊んでやれなかった。色羽の面倒は華の家に任せっきりでな」
「どうして色羽ともっと話してあげなかったの……?」
そうあたしが聞くと、おじさんは深くため息をついた。
「ダメな父親だってわかってたからかな……」
おじさんは言った。
「自分のせいで色羽との間に距離を作ってしまったんだ。父親らしいことひとつもしてないのにさ。色羽が大きくなるにつれて、いまさらどんな顔して色羽と向き合えばいいのか、どんな話をすればいいのかわからなくなってな……」
おじさんは負い目から、色羽と向き合えなくなって。
色羽は、そんなおじさんの態度から、自分は愛されてないんだって思いこんでた。
「おじさん……。色羽ね、自分のせいでお母さんが死んだって思ってたの」
「え……?」
「自分のせいでお母さんが死んじゃったから……だからお父さんが自分のことを愛してくれないんだって……」
あたしたちがまだ小学生だった“あの時”。あのことがあってからずっと色羽は、そう思って生きてきた。
「なんでアイツはそんなこと……そんなわけないだろう?」
そう言っておじさんは、驚いた表情であたしの顔を見た。
「わかってる。でもね、あたしや成がいくら否定したって意味なかった」
「そうか……もしかして俺の態度が……アイツにそう思わせてしまったのか」
もっと早く……色羽と打ち解けることが出来たらよかったのに……。
「アイツは……そんなこと思ってたのか……そんなふうに思って死んでいったのか……」
おじさんは、震えた手で目元を覆う。吐き出した息も弱々しかった。