初恋Daysーあの場所で、また逢えたなら
砂歩の言葉にあたしが黙り込むと、
砂歩は窓辺に置いてある写真立てに目をやる。
その写真には、幼い頃の色羽と成とあたしの3人が笑顔で写っていた。
その写真立ての下には、色羽がくれた最後の手紙が置いてある。
立ち上がった砂歩は、その手紙を手に取り握り締めた。
「もしかしてさ……色羽くんに悪いって思ってる?」
あたしは、うつむく。
砂歩も前に読んだことがあって、色羽の手紙の内容を知っている。
「色羽くんに申し訳なくて、成くんに対して素直になれないんじゃないの?」
「そうじゃないよ……」
「本当に?」
本当に……?
あたしは自分の心に問いかける。
「華……?」
「あの頃……色羽が死んじゃってから、あたしには色羽のことしか考えられなくなった……」
6年前、成があたしを好きだと言ってくれた時も。
色羽のことを考えてた。
「あの頃、色羽のことを好きになり始めてた。その気持ちを色羽に伝えられないまま、色羽があんなことになって……」
あたしは色羽のこと傷つけたまま、ずっと待たせたまま。
結局なにも出来なかった。
色羽はいつも、あたしのそばにいて。
慰めてくれたり、抱き締めてくれたり。
いつもあたしを想ってくれたのに。
「この先もずっと色羽を好きでいようって思った。誰とも結婚はしないで、ひとりで生きていこうって思った」
「華……あの頃から、どれだけ時間が過ぎたと思う……?」
時間は一瞬だって、止まってくれなかった。
あたしの心を置き去りにしたままで。
時間は、季節は。
あっというまに流れていった。
「砂歩の言うとおりかもしれない」
「華……」
「あの頃は、色羽のことでいっぱいだったのに……なのに……いまは色羽に申し訳ない気持ちになるの……」
成とは、幼なじみでいるとあたしが決めた。
高校を卒業して、成とは離れて暮らすようになって。
最初は、新しい環境に慣れることで精一杯だった。
だけど、それもだんだんと慣れてきた頃。
成に会いたくなった。会えなくて寂しかった。
あたしは自分に言い聞かせていた。
会いたいのは、寂しいのは、
いままでずっと一緒にいたからだと。
離れて暮らすようになったから、急に会えなくなって寂しいんだって。
だからこんなふうに思うのは、仕方がないことなんだって。
そう言い聞かせてきた……。
「成に会いたいって思うたび、寂しいって思うたび、色羽に申し訳ない気持ちになるの」
「それはさ、成くんのことが好きだからでしょ?」
成への気持ちを抑えつけようとすればするほど、成が恋しくなった。
成を想うと、色羽に申し訳ない気持ちになった。
そんな自分が許せなかった。
色羽をずっと想っていくことに決めたのは、自分なのに。
成と幼なじみでいると決めたのも、自分なのに。
「華も自分の気持ち、本当はわかってるんでしょ?色羽くんだってさ……」
「色羽をずっと待たせたままで、あたしは自分の気持ちも伝えられなかった。色羽はあたしの気持ちを知らないまま死んじゃったのに……。それなのに今になってあたしは、成に気持ち伝えるの?」
「華……」
「砂歩が言うように、あれからもう6年だよ?成だって、もうあたしのことなんて好きじゃないと思う。あたしにわざわざ言ってないだけで、彼女とかいると思うし……」
成と離れて暮らして6年の月日が流れた。
連絡は取っていても、たまに実家に帰ったときに会うことはあっても。
それでも成とあたしは、あの頃とは変わった。
それぞれ新しい場所で、新しい生活をしてる。
たくさんの人に出逢って、あの町で暮らしているときよりも世界はずっと広がった。
「じゃあ成くんには、このまま何も伝えないつもり?成くんのこと好きなのに、忘れられるの?その程度の気持ちなの?違うでしょ?」
「もしあたしが成に自分の気持ちを伝えて、それで付き合ったとして、成と笑って、幸せに過ごすの?そんなあたしたちを見て……色羽はどう思うのかな……」
胸が苦しくて、涙が溢れてくる。
「あたしは……色羽を悲しませたくない……」
「色羽くんは喜んでくれると思うよ?幸せになってほしいって、手紙にもそう書いてあったよね。色羽くんの想いを無駄にするつもり?」
「それでも……色羽のこと裏切るような気がするんだもん……」
「違うと思う」
「え……?」
「さっきから華は、成くんと付き合ったら、色羽くんを悲しませるとか裏切るとか言ってるけど……」
砂歩はあたしを真っ直ぐに見つめて言った。
「本当はさ、華は自分がそういう人間になりたくないだけでしょ?」
「え……?」
「色羽くんがどう思うかじゃなくて、色羽くんを裏切る自分になりたくないんだよ」
「あ、あたしは……」
「あれからずっと逃げてるだけだよ、華は」