君がいたから
 ぎゅっと、ほうきを持つ手に力が入った。今話してる奴がリーダーなんだなと頭をかすめる。

「バッカじゃないの!真己が非行なんて走るわけないでしょ?それに、おばさんは素敵な人よ。優しくて綺麗だし、何より気が利く人じゃないと商売なんて出来ないんだから」

 口では負けない自信があった私は、ぷいとそっぽを向く。言い返せなくてさぞや悔しいだろうと思いきや、そういった連中は負け犬の遠吠えをするものだというのを忘れていた。

「うるせー、女は黙ってろ!」

 ぶち。どこかで堪忍袋の緒が切れる音がした。
 私は持っていたほうきを大きく振り上げ、リーダーである男子のお尻に向かって思い切り振り下ろした。
 バンッという鈍い音と共に埃が周囲に巻き上がった。
 ごほごほとあちこちで聞こえる咳をバックに、私は毅然とした態度で話しかける。

「そういうの、偏見っていうのよ。偏見を持っている人こそ、ろくな大人になれないわ。でも真己は違う。偏見なんてもってないし、色んなこと知ってて頼もしいんだから。真己と一緒に食べるご飯はとってもおいしくて楽しいのよ。おいしくご飯を食べてるだけなのに、何で文句を言われなくちゃならないの?あんたたちと一緒に食べるご飯はさぞかしまずいんでしょうね!」

 私がこんな啖呵(たんか)を切れたのも、それだけ真己との食事が楽しかったということだ。だから真己の転校まで続いたのだし、真己がいなくなった後は何か物足りない気がした。
 そういえば、転校の時に励みになったという例の言葉は、この啖呵を切った後に言ったと記憶している。
 まあ話を戻して。

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