君がいたから
「おいおい、逃げんなよ」

 くるりと踵を返すと、突然白い壁が出来た。そして私は避けきれずにその壁へ顔を埋める。……この温かさは、人間だ!

「ご、ごめんなさい」

 慌てて謝るが、彼は優しく微笑んで、すれ違い様に私の左肩をぽんぽんと軽く叩いた。
 あれ?今の人、もしかして……。

「何か用?話なら俺が代わって聞くけど?」

 それにこの声も……いやいや違うか。

「あ、いや、もういいんだ。それじゃ」

 意外にもあっさりと引き下がり、男達は排気音を鳴らして夜の街へと消えていった。

「あの、ありがとうございました!」

 私は男性が振り返ると同時に深々と頭を下げる。

「無事でよかったな」

 二度目にして、ようやく私は声の主に確信をする。やっぱり聞き間違いじゃない!真己だ!
 喜びと驚きで、私は勢い良く頭を上げる。この時の私は余程すごい顔をしていたのだろうか、真己は少し眉をひそめ私を見つめる。そして数秒後、驚いた表情を浮かべて問いかけた。

「あれ……?菜々子?」

 そうそうそう!私は返事の代わりに何度も頭を上下に振った。

「あはは。変わってないなー」

 真己こそ、その笑顔全然変わってない。子供みたいににこーって笑うの。怒られるから本人には言えないけど。
 それから少しその場でお互いの近況などを話し、今の目的地が同じことから共にコンビニへ足を運んだ。

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