君がいたから
 始業式の時間が刻々と迫るにつれて、私の抗議の声も大きくなっていった。母にしがみついた私は、涙ながらに学校へは行きたくないと訴えたのである。当日になって突然反発した娘に、両親は困惑の色を隠せない。なんとかなだめようとするが、全部無駄に終わっていた。
 そんな時、家のチャイムが鳴った。
 こんな朝早く一体誰だろう?と、疑問を抱いた声色で母はインターホンに出た。

「隣の三宅(みやけ)です。えっと、菜々子ちゃんを迎えに来ました」

 幼さを感じる話し方に、母は弾むような声で返事をし、ランドセルを片手に私を玄関まで連れ出した。諸悪の根源には会いたくないのに。しかし私の気持ちなどおかまいなしに、二度目の対面を強いられる。
「いってらっしゃい」と明るく送り出す母とは裏腹に、私は不機嫌な顔をして歩き出した。そんな私に真己は躊躇いがちに声をかける。

「昨日、ごめんな。本当はあんなこと思ってないから」

 謝ってくるなど予想もしていなかった私は、一瞬驚いたものの、口ではもう気にしていないと答えていた。もしかしたら、そんなに悪い奴じゃないかも。
 真己は私の許しが得られるやいなや、ぱっと笑顔を咲かせた。

「何かわからないことがあったら俺に聞けよ。力になるから」

 本当に悪い人じゃないかも。
 我ながら単純である。

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