美狐はベッドの上で愛をささやく
「紗良(サラ)ちゃん、準備はできた?」
コンコン。
紅さんの寝室のドアをノックされ、物思いにふけっていた頭が覚醒する。
「あ、待ってください」
わたしは以前、真赭さんが選んでくれた桃色のワンピースを身につけた。
腰まである長い髪が少し邪魔かもしれない。
どうしよう。
「紗良ちゃん、入るよ?」
少しだけ迷っていると、痺(シビ)れを切らした紅さんが中に入って来ちゃった。
「紗良ちゃん……とても美しいね」
部屋の中に入って来るなりお世辞を言う紅さん。
霊体に悩まされないよう、紅さんはこうやって、『汚くなんてないよ』って、そうわたしに教えてくれているんだ。
でもね、紅さん。
わたしは本当に汚い化け物なんだよ?
紅さんは優しいから、きっとわたしの汚い部分を見ないようにしているだけ……。
それだけだ。
わたしは、紅さんのお世辞にニッコリ笑って微笑み返す。