美狐はベッドの上で愛をささやく

「紗良(サラ)ちゃん、準備はできた?」



コンコン。

紅さんの寝室のドアをノックされ、物思いにふけっていた頭が覚醒する。


「あ、待ってください」


わたしは以前、真赭さんが選んでくれた桃色のワンピースを身につけた。



腰まである長い髪が少し邪魔かもしれない。


どうしよう。


「紗良ちゃん、入るよ?」



少しだけ迷っていると、痺(シビ)れを切らした紅さんが中に入って来ちゃった。


「紗良ちゃん……とても美しいね」



部屋の中に入って来るなりお世辞を言う紅さん。


霊体に悩まされないよう、紅さんはこうやって、『汚くなんてないよ』って、そうわたしに教えてくれているんだ。


でもね、紅さん。


わたしは本当に汚い化け物なんだよ?



紅さんは優しいから、きっとわたしの汚い部分を見ないようにしているだけ……。


それだけだ。



わたしは、紅さんのお世辞にニッコリ笑って微笑み返す。


< 187 / 396 >

この作品をシェア

pagetop