美狐はベッドの上で愛をささやく
階段を上りきると、ふたつ並んだ部屋があって、手前の部屋がわたしの寝室だ。
そっと襖を開けて部屋の中へ入る。
畳8畳分の部屋にあるのは、勉強机だけ……。
本来あるだろうベッドも、布団もない。
眠れる何かがあれば、きっと、わたしは欲に負けてしまう。
わたしは……けっして寝ることを許されない。
眠れば、意識を失ったわたしを、彼らは狙うから……。
わたしが父に言って、何もかもを無くすようにお願いしたんだ。
……ぴちゃり。
……ぴちゃり。
静かな部屋で、ひとり佇(タタズ)んでいると、不意に遠くから、水に濡れたような足音が聞こえた。
その足音は、少しずつ近づいてきている。
わたしの魂を狙う霊体たちだ。
わたしは、これから自分に降りかかる出来事に耐えるため、ぎゅっと唇を噛みしめた。
……また恐怖に包まれた眠れない日々を暮らすんだと覚悟して……。